――ああ、引き込まれる。
男の艶めかしい舌が、無遠慮に口腔へと侵入し、這いずり回る。
戯れに自分のそれを絡めてみれば、吐息ごと奪われた。
――ああ、引き込まれる。
男の艶めかしい舌が、無遠慮に口腔へと侵入し、這いずり回る。
戯れに自分のそれを絡めてみれば、吐息ごと奪われた。
[Time begins to go by.]
January 15th,200X
世界は静寂に満ちていた。
息が詰まるような、光も音もない世界。
混濁した意識の海から、魂が抜けるかのように、現実という名の海面にふわりと浮上する。
[True reason to have loved you.]
December 25th,200X
数多の神を信奉するこの国において、クリスマスとは2つのイベントに集約される。
ひとつは、恋人たちが互いの関係を――主に性的に深めるための口実。
もうひとつは、子供たちが、サンタクロースに願い事をしてから、指折り数える夜の終着点。
柳漣にとってもこの日は、特別な、譲れない用事があった。
[True reason to have loved you.] by Masaomi Serizawa
December 25th,200X
「血が止まるまで、上から押さえていてくださいね」
若い看護婦が、消毒アルコールを含ませた脱脂綿を、肘の内側にテープで固定した。
[You are my treasure.] by Masaomi Serizawa
December 23th,200X
俺が髭を伸ばすようになったのは、いつからだろうか。
はっきりとは覚えていないが、『裏』の仕事を始めてからだったような気がする。
[Don’t let me down.]
December 20th,200X
用意されて以来、明らかに使われた形跡の無い、雅臣の寝室。
頼まれれば話は別だが、私室の掃除までは勝手に行わないので、柳漣が立ち入ったのはこれが初めてだった。
[Don’t let me down.]
December 20th,200X
師走とは良く言ったもので、12月も下旬に差し掛かると、飲食店の忙しさは平常の比ではなくなる。
柳漣の切り盛りする料亭とてその例外に漏れず、懇意にしている常連客の予約で、連日連夜、満員御礼だ。
[He chose the best condition.]
「もう一度確認します……」
細いメガネのフレームを押さえながら、男は鋭い目つきで俺を一瞥した。
「自己破産の手続きをなさるつもりは、無いのですね?」
名前は……確か初対面のときに名刺を貰った気がするが忘れた。いや、正しくは最初から覚える気なんて無かったんだと思う。
[Whose is your mind?]
December 15th,200X
理由なんて分からない。
気がつけば、いつもと変わらない時間に部屋を出た同居人の後を、柳漣は追っていた。
[Whose is your mind?]
December 14th,200X
雅臣は自分のことを語らない。
一緒に暮らすようになって2週間と数日。
彼について知ったことといえば、朝食は食べない、アルコールの銘柄には拘らない、晩酌の延長戦で酔い潰れてソファーで眠る……それに運転中しか眼鏡を掛けないことぐらいだ。